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鏡の中からSOS! [ちいさなおはなし]

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* * *


その日、アンゼリカは衣装部屋の整理をしていました。

「この仮面はいつ使ったやつだったかな? 薔薇の羽根付き帽子も、だいぶ傷んできてるな。帽子屋に修理に出しておかないと……」

状況によって、いつ何時、どんな変装をすることになるか分かりません。
定期的な衣装のチェックは、怪盗の大切な仕事のひとつでした。

(アンゼちゃん! アンゼちゃん!)

その時でした。どこからか、呼ばれた気がしてアンゼリカは顔を上げました。
しかし、しめきりの室内には自分以外に誰の姿もありません。

「……?」

訝しみながら、何気なく道具箱の手鏡を持ち上げたアンゼリカは、そこに大映しになったココアの顔に、思わずそのまま宙に放り投げてしまいました。

(やっと気付いてくれた! アンゼちゃん~!)
「そんなとこから、どうしたんだ、ココア……」

気を取り直して手鏡を拾い上げると、鏡の中のココアが切羽詰まった調子で訴えてきます。

(助けて、アンゼちゃん。今、チェス対決の真っ最中なんだけど、あたし、ルールがよく分かんなくって。もう負けそうなの~!)

ココアが後ろに引くと、背後に巨大なチェス盤と駒が見えました。
駒にはそれぞれ意志があり、自分の力で動いているようです。
駒のひとつとなったココアは、白が負けてしまった場合、このままチェス盤に囚われ、鏡の世界から出られなくなってしまうのでした。

「よし、なるべく鏡にチェス盤の全体が映るようにするんだ。わたしが指示を出すから、ココアは、その通りに動くように駒に伝えて」
(うん、分かった!)

アンゼリカは、部屋のチェス盤を手元に引き寄せると、鏡の中の状況と同じように駒を並べました。そうして、ココアの報告を聞きながら、勝負(ゲーム)を進めていきます。

「相手の指揮官もなかなかやるな……」
(アンゼちゃん、大丈夫?)
「心配するな。わたしは強いからね」

手に汗握る攻防が続いた末に、ついに「(チェックメイト!)」

ココアとアンゼリカの声が重なって、同時に鏡の中からまばゆい光が放たれました。
光が収まると同時にどすん! 階下から大きな地響きが。
ばたばたと階段を昇ってくる靴音が近づいてきて、ばん! 
勢い良く扉がひらき、元気いっぱいのココアが飛び込んできました。

「ただいま、アンゼちゃん! ね、今度あたしにもチェスを教えてっ!」

将来のチェスの相手が見つかったかもしれない(?)アンゼリカでした。

FIN




「鏡の国のココア」完結編(?)

昨夜、この話が頭に降ってきて、急きょ小話にしてみました。

一応、にわか仕込みでチェスのルールも読んでみましたが、お話に組み込むのは無理だった……。
アンゼ、飼い主にも教えて~。

ちなみに、どうやって鏡の中のココアがアンゼリカと話ができたかというと、ココアのワンピースのポケットに折りたたみ式のコンパクトミラーが入っていて、それが外の世界との通信を可能にしたというわけでした^^

久しぶりに短めのお話を書いて楽しかったです~。
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