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明るいストーカー生活のススメ [塔の家物語]

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本日は、久しぶりの「兄おれ」シリーズ……の、番外編、でございます。
イヤ、番外と言いつつ、話はちゃんとつながってるんですけどね。
インターミッションというか……、話と話をつなぐ、間のおはなしなんでございます。ひらたく言うと、うちの子しか出てない。

前回までのおはなしは、こちらから。  ⇒ 「塔の家物語」 兄貴とおれシリーズ 

ぷらす、兄貴(=リオンくん)の飼い主、cotonoさんに書いていただいた、こちらのおはなしを読むと、
今回の話がより分かるんじゃないかなあと思います。 ※また勝手にリンクはらせてもらってま~す

ではでは、どうぞ!






【兄貴とおれシリーズ】番外編
「明るいストーカー生活のススメ」



その日の朝、目を覚ましたアンゼリカが塔の階段を下りると、階下はしん、と静まりかえっていました。
伝言板に無造作に貼りつけられたメモ。そこに踊る、ココアの特徴的な文字。

“みんなで、映画館に行ってきまーす♪”

そう言えば、数日前の夕食どき、今流行(はやり)の3D映画を見に行こう!と、みんなで盛り上がったのでした。
その時は、好奇心もあって、安請け合いをしたのですが、どうやら置いていかれたようです。

(まあ、仕方ないか)

鍵つきの部屋で、今の今まで夢も見ずに寝こけていたのですから、起こされなかったのを恨むのはお門ちがいというものでしょう。だいたい、昨夜のハードすぎる仕事の疲れで、全身はバッキバキの自動人形(オートマタ)状態。とてもではありませんが、「健康体の人間でもあまりの迫力に車酔いにも似た症状を起こす」と言われている、最新の3D映像についていけるだけの体力は残っていません。

(まあいいや。あとで、あいつらの話をきいて脳内補完すれば……)

アンゼリカは、首をゴキゴキと鳴らしながら、ひと気のない居間へと向かいました。
映画館があるのは森を越えたとなり町。
どうせ一日誰も帰ってこないのであれば、居間のソファで、昼間からワインで酒盛りというのも悪くありません。

(つまみは何か、あったかな……)

食料庫の中身を思い描きながら、開け放しの扉から部屋の中へと入ったアンゼリカは、数歩すすんだところで、
ゴッ。何かに足をとられ、前のめりにつんのめりました。
そこは天下の大怪盗。持ち前の反射神経で、とっさにバランスを取り、なんとか事なきを得ました。
問題は、”何が ”彼女の行く手を遮ったか、という、ことで……。

すり切れたジーンズの裾、そこからのびた骨ばった素足。
扉の内側で、行き倒れよろしく座りこんでいたのは、アンゼリカに輪をかけてひどい顔色をしたブランシュでした。
あたりには食べかけのスナック菓子の袋や、飲みかけのペットボトルなどが散乱しています。

「おい、お前……。どうしたんだ?」

思わず、腰をかがめて尋ねると、長い前髪に半ば覆われていた双眸が動きました。
ゆらり、幽鬼のごとく持ち上がった瞳のきわに、みるみるうちに水分が盛り上がっていきます。
アンゼリカは、ぎょっとして身を引きました。その腕を、がしっ。強い力でつかまれます。

「おれ……、どーしたらいいんだろうっっ!」

わーんっ。
理由(わけ)も分からず大泣きされながら、アンゼリカは、これは貧乏くじを引いたかな、と天を仰いだのでした。


*


アンゼリカが戻ってくると、ブランシュはソファの上で膝を抱え、ちいさくなっていました。
じっと一点を見つめる視線の先に、地下の調理場から調達してきたカップラーメンを置いてやります。
お湯を注いだシーフード・ラーメンは、調理場からここまでの移動時間を勘定に入れると、あと2分程で食べごろに達するはずでした。

「少しは落ち着いたか?」

体内にくすぶっていた感情を一気に放出したブランシュは、もうすっかり空気の抜けた風船のようになって、わずかにこくりとうなずきました。
カーテンを揺らす初夏の穏やかな風。振り子時計の音だけが、ゆっくりと時を刻んでいます。

「おれ……、どうしたらいいんだろ」

ぽつり。ブランシュがつぶやきました。次いで、この世の終わりかとも思われるほどの大きなため息。
いつも能天気にそこらをかけずり回っている印象しかなかったブランシュの、こんな表情を初めて見ます。
アンゼリカは、とりあえず黙って様子を見守ることにしました。
ブランシュは、しぼり出すように言いました。

「おれ、どーしても強くなりたいんだ。そうじゃなきゃ、ガレットさんを守れない……。今のままじゃ、駄目なんだ。だから、だからおれ、リオンさんにお願いに行ったのに。……どーせっ、おれはガキだよっっ。んなこと、言われなくたってよく分かってるっ。だから”変わりたい ”って思ったんだろ。ったく、どーすればいーんだよぉっ」

次第に苛立ちが募ってきたのでしょう。ブランシュは、膝の上に重ねた両腕に、不貞くされ顔を横たえました。

(……成程、ね)

ここに至ってようやく、アンゼリカにもことの次第がつかめてきました。
ここ最近、ブランシュが騒いでいた「師匠候補」。
ようやく本人に会えたはいいものの、見事に門前払いを食らったということでしょう。

(この調子で迫られたら、ちょっと引くかもなぁ……)

アンゼリカは内心でこっそり、正直な感想を抱きました。
そんなアンゼリカの心の動きを察知したのでしょうか。
がばっ。勢いよく顔を上げたブランシュは、頬と頬が触れ合いそうな距離まで詰め寄り、

「一応、おれなりに作戦だって立てていったんだ。なんか、リオンさんてめちゃくちゃ忙しい人みたいでさ。merufaさんの館にも、めったに帰ってこないし、たまに帰ってきても、メシも食わずに出て行っちまう。これじゃ、いつまで経っても会えっこないだろ。だから、merufaさんやセルジュさんに頼んで、リオンさんの行きそうなところを教えてもらって、先回りして。それで何日も張って、よ~やく会えたっていうのにっっ!!」

ぱったり、脱力するブランシュ。アンゼリカはあっけにとられました。

「あのさ、お前、それってすでにストーカーじゃ……」
「それにやっぱさ!」

ブランシュは聞いていません。

「なんでも、”第一印象“が大事だっていうだろ? 弟子入りを申し込むなら、"田舎から出てきた純朴な少年"風がいいってココアが言うからさぁ、“おいら”とか言い慣れない言葉使って、それっぽく装ってみたりもしたんだ。なのに、全っ然、効果ナシでさー」
「…………」

アンゼリカは頭痛をとおりこして眩暈がしてきました。額に手を置いて、黙考します。
その横で、思いの丈を吐き尽くしたブランシュはスッキリしたのでしょう。
今頃、目の前のカップラーメンに気付きました。

「あれ? もしかしてコレ、とっくに3分過ぎてんじゃないの? やべー、麺がデロッデロになっちまう」

あわてて蓋をはがし、わりばしを持った手を合わせます。

「いっただっきまーすっ」

ずるるるる~。やはり麺は伸びぎみでしたが、空腹の成長期の少年にとっては、些細なことなのでした。

(やれやれ、泣いてわめいて、元気なことで……)

何はともあれ、これだけ食欲があれば心配はないでしょう。
アンゼリカも、ようやく遅い朝食にとりかかり始めました。


*



(師匠、ねぇ……)
もくもくと箸を動かす、アンゼリカの脳裏に、ひとりの美しい女の面影が過ぎりました。うつむき加減のうしろ姿。想像の中の彼女は、けしてこちらを振り返ろうとしません。

(まぁ……どこにでもある話だよねぇ)

揺り起こされた感傷に蓋をして、記憶の一番奥の隅っこに押しやりました。
噛み切れないイカを奥歯で丁寧に咀嚼しているうちに、記憶は、どんどんと遠ざかってゆき、やがて、見えなくなりました。


*


ふと横を見やれば、ブランシュは、はふはふ言いながら、箸の先でつまんだナルトを口に放り込んでいます。

「それで? そこまで脈ナシで、あきらめようとは思わないわけ?」

アンゼリカの問いに、ブランシュは間髪入れず答えました。

「当然だろっ。リオンさんはおれの理想の人なんだ。OKしてもらうまで、ぜったい、ずぇ~ったいあきらめないかんなっっ!」

ごくごくごく。ぷはっ。ラーメンの汁を一気に飲み干すと、鼻息も荒く、容器をテーブルに叩き置きます。
アンゼリカは苦笑しました。彼の中で、もうすでに答えは出ていたようです。
けれど、”多少なりとも”人生の先輩として。言うべきことは言っておかなければならないでしょう。

「よし、その意気だ。だがな、ブラン。一途なのは良いことだが、かと言って、あまり一方的に想いをぶつけるのはよくないぞ。相手のことを考えて、思いやること。それが、本当の信頼関係への一歩なんじゃないのか?」

わたしが言っていることの意味、わかるか? 
アンゼリカが顔を向けると、神妙な表情をしたブランシュがこちらをまじまじとのぞきこんでいました。
その、あまりにキラキラとした眼差しに、アンゼリカは思わず、身を引きます。

「……な、なんだ?」
「いや、なんかアンゼさんってさー。ときどき、兄貴みたいだよなー」

ギクッ。アンゼリカの心臓が跳ね上がります。ブランシュは笑って、

「男前、ってゆーかさー。なんでこんな風に感じるんだろうな? アンゼさんは、女の人なのに。……こんなこと言ってたら、またココアのやつに叱られるなー。あー、ごめっ、おれ、変なことゆったっ」
「あ……、ああ…………」

鋭い。アンゼリカは内心、冷や汗をかきながら生返事をしました。
アンゼリカの動揺をよそに、ブランシュはすっかり元の調子を取り戻したようです。元気よく立ち上がると、

「ぃよおしっ! それじゃ、早速リオンさんに会いにいくか!」
「えっ? 私の言ったこと、ちゃんと聞いてたかっ?」
「確か、セルジュさん情報によると、今日はシティのほうで仕事らしいんだ。今日こそ、ぜったいぜったい最後までついていって、おれの話、もう一度聞いてもらうんだ……!!」

気合十分でそう宣言すると、一目散に駆け出して行きます。
ガコンッ、ゴミ箱にラーメンの空き容器を放り込む音を最後に、だだっぴろい居間の中は、再び静かになりました。

(……やれやれ。どうなることやら)

アンゼリカは、見知らぬ”兄貴”に、大いなる同情とほんのちょっぴりの羨望を覚えつつ、ひとり肩をすくめたのでした。
FIN






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次回に続く!(というか、ここからが本番だ!)
以前cotonoさんが書いてくれた、ブランシュとリオンくんの(実質的)初会話エピソードが素敵すぎたので、
なんとかうまく繋げられないかなあと考えた結果、こんな話になりました。

時系列的には、

・ブランシュ、merufaの館に行ってリオンくんと会う。(「まだ見ぬあこがれの人」~「深夜の侵入者」)
  ↓
・ブランシュ、リオンくんを追いかけて路地へ。あっさりフラれる。(「弟分ができちゃった」)
  ↓
・ブランシュ、塔の家でアンゼリカに泣きつく。(「明るいストーカー生活のススメ」)

という流れになっております。次回以降の展開も乞うご期待なのでございます。

【私信】cotonoさんへ。ブランの「おいら」発言について、勝手にこんな解釈をつけてしまいました!
我ながらうまい具合におさまった……と思ったのですが、ど、どうかな?




上のアンゼ単体のイラストは、けっこう前にさらーっと描いて、載せるタイミングを逃してお蔵入りになってたものでした。というかなにげに、カラーでちゃんと描いたアンゼさん載せるの今回がはじめてなんじゃ……。
文章ではたくさん書いてるので、あんまりそんな感じがしませんね。しかし2枚のイラストですら、顔や髪型が違う……。
冒頭の絵に関しては、カップラーメンを描くのが楽しかったです♪

一応、アンゼリカはうちの子の中ではいちばんの正統派美少女のつもりでいます。
目は大きく、まつげはバサバサ、色白でスタイルも抜群。
ココアは愛嬌がある顔立ちだとは思うけど美少女じゃないし、ガレットはちょいキツめ(ブランはそこがいいらしい)。
ムースちゃんは神秘的な雰囲気だといいなあ。
ま、描き分けが一切できてないので、言うだけなんですけどね!! (涙)


次は「ラテの修行話」か、「モカ×ベリーちゃん」ができるかなあ。
モカベリーは最近わたしのなかでまた熱いんですよね! 
よく分からん妄想話をある日突然披露するかもしれませんが、大目に見てやってください……。
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cotono

わぁ~い♪兄貴とおれのお話、楽しみにしてました^^
アンゼリカちゃん...いぇ、アンゼリカさん(の方がいいかな♪)漠然としたイメージだったんですけど予想以上に(服装も含め)カッコイイ女の人だと思いましたv
正統派美少女、ぴったりです!
ガレットさんは生い立ちやら性格やらでこの前のパーティーのような時には無自覚な程度に気を張ることもありそうな感じがしますけど、アンゼリカさんの方は精神的にホントの大人って感じがします^^
落ち込んでたりカップめんで立ち直ったりのブランくんは可愛いですw
ブランくん、リオンなんぞ当てにしなくても目の前にすごくいい師匠になりそうなアンゼリカさんがいるのにね~^m^
アンゼリカさんが後ろ向きの女性を想像したところは気になりましたw
男前と言えば、「おいら」発言なんですが、すごい!!上手く修正しましたね~^^
私が先走ってお話を書いちゃったもので順番までも違っちゃってスミマセン^^A
でも私の話としっかり絡んでいるのがさすがでございます^^☆
「おいら」って私の中ではよく遊んでいるゲームで妖精さんが出てくるんですけど、実はそのこが
おいらって言うのです。
背は妖精さんなのでちっちゃいんですけど男前って感じでカッコイイんですよw
こちらのブログに伺い始めの頃、小話のリヴのブランくんがイメージにぴったりだったのです^^
あと私的にイメージが少ないのはムースちゃんだけなんですけど、神秘的美少女ってことでこれからのお話、こちらも期待してますね♪
by cotono (2010-05-23 11:00) 

オムレット

>cotonoさん
毎度おなじみ、兄おれでございます~。ほんと、兄弟の約束が交わされるまで、
一体何話かけるのかという感じですが……(汗) 次は! 次こそは必ず!!
今回はブランシュの人生相談にかこつけて、アンゼリカの男前エピソードを絡めて出してみました♪
お子さまぞろいのうちの子の中では、やっぱりアンゼが一番精神的には成熟してると思うのです。
歳の割には、色々経験してるだろうしね。その辺も最近少しずつですが見えてきたかも。
あー、ガレットはその通りですね。冷静なようでいて脆いとこもあるので、
「大人」というよりはやっぱり「背伸びしてる」感があるのですよね。
ブランは……もー、お前はいつまでもそのままでいてくれ!(笑)
イヤイヤ、アンゼはねー、今の時点ではブランの師匠にはなり得ないんですよ。
他の子たちはアンゼ=シナモンて知らないからね。アンゼは塔では猫かぶってるので、
まさかそんなに強いなんて誰も思ってません。ココアが知ったらびっくりするだろうなあ~。
ああ、はじめは"町で会ってから館へ行く"という流れで考えてくれてたのですよね。
こちらこそ、都合上話が前後しちゃって申し訳ないです。混乱しないですかね~?
いやー、あのcotonoさんの出会いエピから色々と出会い話が広がっていったので、先走り、ありがたいですよ!(むしろどんどん先走ってくださってOK!!)
わたしのは、それをお借りして延々と遊ばせてもらってるだけです^^
もうちょっと簡潔にできればいいんだけど……。どうも話が長くなる悪い癖が^^;
兄弟になった後のエピソードも早く書きたいよお~。
「おいら」使いはかっこいい妖精さんからだったのですね。そうとも知らず、「田舎者」呼ばわりしちゃってホントすみません!! 
でもま、リオンくんの弟分になりたいばっかりに、ココアの言うことを間に受けて
空回りするブランの図も「らしい」かなと思うので、よい展開になったと思います^^
by オムレット (2010-05-24 21:03) 

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