兄貴とおれ・第4話(最終話) 「深夜の侵入者」 [塔の家物語]
おはようございま~す。連休いかがお過ごしですか?
ここ数日、地道にバトン消化につとめていたわたしですが、水面下では、せっせと兄貴話の直しとイラスト作成に励んでおりました。話はできてるとか言いながら、結局前の更新からきっちり2週間経ってますね……。お待たせした分、最終話(話の区切り的な意味で)の今回は大ボリュームでお届けします。てことで、長いです。
せっかく描いた挿絵は展開上、ずーーっと下のほうで出てきます……。
(こんな長い文章読んでられるか!! っと言う方は、ぜひスクロールして見てやってください;;)
えっと、お話にいく、その前に。
長々とお待たせしてしている間、「兄貴」の飼い主・cotonoさんから、物語の展開予想図(!)として、ブランシュとリオンくん(+ココア)のイラストを描いてもらっちゃいました^^ ⇒ こちら
第3話でもイメージイラストを描いてもらったんですが、予想図、というのは想定外で、うわあああ! と大喜びしながら見てました^^ 書いて描かれて、最高に楽しいですねー!
今回のお話を読む前に、こちらをご覧になると、更に楽しめるかと思います!
ではでは、どうぞー!
【注意書き】作中に出てくる、merufaの館の描写はすべて、わたくしオムレットの妄想の産物です。あくまでオリジナルはcotonoさんの設定になりますので、どうぞご了承ください!
(前回のおはなし)
ココアと一緒に、merufaの館へやってきたブランシュ。館の中でみんなとはぐれてしまったブランシュは、事情を知らないルイくんに、不審な人物と間違われてしまいました。merufaちゃんのとりなしで、ようやく誤解は解けましたが、まだまだ先が思いやられて……?
*************************************************************
「悪い。遅くなった。フィル、館の様子はどうだ」
「はい。変わりありません」
一陣の風とともに、客間に赤髪の青年が現れました。
ブランシュ (き、来たっ!)
ブランシュは、テーブルをはじき倒す勢いで立ち上がると、どきどきしながら、フィルくんと話しているリオンくんのうしろ姿を見つめました。その熱い視線が伝わったのか、リオンくんがこちらを振り向きます。神秘的なアメジスト色の瞳を細めると、ブランシュの方へ近づいてきました。
リオン 「お前か、オレの弟子になりたいってやつは。よし、これからはオレのことを師とも兄とも思えばいい」
ブランシュ 「兄貴!!」
…………。
ココア 「ブラン君。ブラン君!」
横から肩をゆすられ、ブランシュは我に帰りました。
ここはmerufaの館の一室。隣にはあきれた様子のココア、正面では館の主人、merufaちゃんとルイくんが、静かにお茶を飲んでいます。
話しているうちに、ブランシュは目を開けたまま、リオンくんがやって来る夢を見ていたようでした。
部屋には他に、室内噴水のそばでワイングラスを傾けるセルジュくんの姿があるきりで、あの、焔のような赤髪は見当たりません。ブランシュはがっかりして、肩を落としました。
ルイ 「そう言えばリオンは? まさか、帰って早々遠乗りに出掛けたわけでもないんだろ?」
ブランシュの思考を読んだように、ふいにルイくんが尋ねました。お目当ての名前の出現に、ブランシュは身を正して耳ダンボ。セルジュくんとルイくんとリオンくん。3人はそれぞれ、別々に仕事をしていて、お互いの行動までは把握していないようです。
merufa 「さっき、連絡があったの。ちょっと遅れてるみたい。今夜は、もう戻らないかも。きっちり、時間どおりに終わる仕事じゃないから、時々、こういうことがあるの。ココアちゃん、ブランシュくん、ごめんなさいね」
ココア 「そうなんだぁ……」
ココアはあいづちを打ちながら、横目でブランシュの様子を窺いました。
ブランシュ(どーーーん)
案の定、相当ショックを受けているようです。反動でソファにめり込むようにうなだれるブランシュを、ココアはいたましげに見つめました。
merufa (ブランシュくんたら、そんなに、うちのリオンに会いたかったのかしら?)
不思議そうに小首を傾げるmerufaちゃん。そこに、執事のフィルくんが、夕食の用意ができたことを告げに来ました。merufaちゃんは、その場の空気をとりなすように、明るい声を上げます。
merufa 「うちのシェフが、2人のために腕によりをかけて作った料理よ。さ、食べましょ!」
ココア 「わーい♪ ごはん~! ブラン君、行くよー!」
ブランシュ 「…………」
merufaちゃんを先頭に、ココアが茫然自失状態のブランシュの背中を押して客間を出ていきます。
その様子を面白げにみつめる視線がありました。
セルジュ 「ふーん……あいつ……」
ルイ 「? なんだよ?」
ルイくんが聞きとがめますが、セルジュくんは、意味ありげな微笑を残したまま、それ以上語ろうとはしませんでした。
食事は素晴らしいものでした。
なにこれ! すごい! おいしい~! を繰り返しながら、着々とお皿を空けていくココアと違って、ブランシュは豪勢な皿の中の料理を持て余しぎみ。
merufa「あら、ブランシュくん、意外に小食なのね」
ルイ 「別に、口に合わないなら合わないって、正直に言っていいんだぞ?」
ブランシュ 「いや、そんなことないんですけど。なんて言うか、おれには高級すぎるっていうか、食べ慣れなくて……」
ココア 「あ、そお? ブラン君がいらないなら、あたしがもらっちゃおーっと。ぱく♪」
merufa 「ココアちゃん? いくらなんでも、食べすぎよっ?」
夕食のあと。お腹がいっぱいになったココアは、背もたれに身をあずけて御満悦。
ココア 「あたし、merufaちゃんの部屋で寝るー♪」
merufa 「そうね。ブランシュくんは?」
ブランシュ 「えーっと、おれは……」
言いよどむブランシュに、ルイくんが軽口を投げます。
ルイ 「部屋なんか、いっぱい余ってんだから。適当に選んで、好きなところで寝ろよ」
ココア 「そうだっ。あたし、借りてた本を持ってきたの」
セルジュ 「なら、先に図書室に行こうか。また、違う本を持って行ったらいいよ」
ココア 「うんうん、行く行く!」
ブランシュは、ココアたちと別れ、ひとり、館の中を散策することにしました。
長く伸びた廊下の両端には、等間隔に扉が並び、それがどこまでも続いていました。普段、狭苦しい塔の家で生活しているブランシュにとっては、めまいがするような広大さです。
ためしに、手近なドアを開けてみると、そこは中央に大きな天蓋付きベッドが据えられた、西洋風の部屋でした。かと思えば、次の部屋は、花の香り漂う南欧風。うってかわって、次の部屋は、コンクリートうちっぱなしの近代的な内装。
とにかく、1つとして同じ部屋がないのです。ブランシュはだんだん面白くなってきて、片っ端から扉を開けて中を覗き込みました。
ある部屋に入ったとき、ブランシュは、それまでと明らかに異なる感覚を覚えました。今までの部屋と違うこと。この部屋には、人の生活の香りがする。
そう、ここには、誰かが長期的に「住んで」いるのです。
室内は闇に包まれていました。庭に面して、大きな窓がとられています。ガラスには忍び寄る夜闇が映り込み、姿を映した者の魂を吸い取ってしまうようでした。ブランシュは灯りをつけないまま、部屋の内部を見渡しました。
シンプルなパイプベッド。その脇に転がるバイクのヘルメット。
そして、壁に掲げられた大小さまざまな剣。
ブランシュ (ここって、もしかして……)
はっ、とmerufaちゃんは手のひらで右耳を抑えました。そのまま、様子を探るように、意識を集中させます。
merufa(結界がやぶられた……? 何者かが、この館に侵入、した!)
セルジュ 「merufa。今の、気づいたか?」
merufa 「ええ。強行突破できるとなると、相手はそれなりの実力者よ」
ルイ 「おい! どうなってるんだ!?」
ルイくんまで駆け込んできて、図書室は騒然となりました。
ココア「みんな大騒ぎして。どーしたの?」
ひとり分厚い本を抱え、きょとんとするココア。何だかよく分からないけれど、大変なことが起こったようです。
ルイ 「おい。あの逆髪はどこ行った」
merufa 「ブランシュくんのこと? 東の棟にいるはずだけど……」
セルジュ 「気配はそっちからだ」
ルイくんとセルジュくんが争うように駆け出して行き、ココアはmerufaちゃんと取り残されました。不安そうな顔をするココアを、merufaちゃんは励まします。
merufa 「心配しなくても大丈夫よ。ああ見えて、うちのコたちは強いんだから」
不意に耳に届いた“ぱりん”、という乾いた音、次いで首筋をなでる冷気。
ブランシュは次の瞬間、背後から近付いてきた黒い影に押し倒され、首元を皮手袋の指で締め上げられていました。
??? 「くたばれ、破妖士。積年の恨み、ここで晴らしてくれる」
はようし? 一体何のことでしょう。聞きなれない単語に戸惑いながら、しかし深く考えている暇もなくて、ブランシュは必死に身をよじりました。
ブランシュ (び、びくともしないっ……!?)
なんという怪力でしょう。ブランシュは逃れる術を持たず、そのまま意識が遠のきかけました。脳裏を、さまざまな事柄が、高速で駆け巡ります。
ブランシュ(ああ、そうか。おれ、ここで死ぬのか。ガレットさん、怒るだろうなー……。あ、やっべー、来週のジャンプ、もう読めないじゃん! あのマンガの続き、気になってたのになー)
とても生死をさまよっている人物の思考とは思われません。しかし、いくら危機感がなくとも、呼吸機能の低下は平等です。急速に狭まりかける視界、その端を、暗闇を照らす松明のような影が横切りました。それは無意識が見せた幻でしょうか。……それとも?
頭上を、急な突風が吹きつけたと思ったら、首元の圧迫から解放されていました。せき込みながら視線を上げれば、今しがた現われた3人目の人物が、ブーツの底で侵入者を足蹴にし、首元に光剣の切っ先を突きつけています。
???「ったく。ここまで追いかけてくるなんて、しつこい野郎だ」
目元を覆う長い前髪から、水滴がしたたり落ちます。
ブランシュは、暗がりに浮かび上がる影の形を、息を詰めて見守りました。
ブランシュ(あっ!?)
暗闇にキラリ、一筋の光が閃きました。
侵入者が、唯一自由になる左手を動かし、取り出したナイフを逆手に持ち替えたのです。光剣を手にした青年は、その動きに気づいていません。
「危ないっ!」
ブランシュが叫んだのに気をとられ、ほんの少し青年が足裏に込めていた力がゆるみました。侵入者は、その隙を逃がしませんでした。青年を突き飛ばし、ひらりと身をひるがえすと、開け放しの扉から廊下へと出ていきます。
「ちっ! 逃がしたか」
青年は、足もとの光剣を拾うと、侵入者を追って駆け出しました。
ひとり、取り残されたブランシュは、へたりこんだまま、数秒、放心していました。光の剣。燃える赤髪。彼こそが、探し求めていた人物に違いないのです。
廊下に出たところで、駆け付けたルイくんとセルジュくんと鉢合わせしました。
セルジュ「おい、何があった!?」
ルイ 「待てっ、そっちには扉がっ!」
2人が止めるのも聞かず、ブランシュはリオンくんを追って廊下を走ります。
やがて、ひとつの大きな扉の前にたどり着きました。勢い込んで扉を開いたブランシュ。
そこには、遥かなる宇宙の深淵が広がっていました。またたく星々、無限の常闇。
驚いて扉を閉めたブランシュ。呼吸を整え、もう1度ノブを回します。
ブランシュ 「あ、あれ?」
見間違いだったのでしょうか。扉の中は、何の変哲もない客間の一室に変わっていました。長いこと使われていない部屋なのでしょうか、家具には白い布がかけられています。
とんとん。後ろから肩を叩かれ、振り向くと、merufaちゃんが満面の笑みをたたえて立っていました。
merufa「ブランシュくん、お部屋は決まった? ねえ、なんならみんなでDVDでも見ない?」
あとからやってきたセルジュくんとルイくんに、めくばせをして、ブランシュを例の扉から引き離すmerufaちゃん。どうやら、館の秘密は守られたようでした。
ココア 「えーっ、リオンくんに会ったって? ブラン君、夢でも見てたんじゃないの? リオンくんはまだ帰ってきてないってmerufaちゃんが言ってたよ」
みんなが揃った、DVD鑑賞室。ニコニコ笑う、merufaちゃんとルイくんとセルジュくん。
ブランシュは、釈然としないものを感じながら、黙り込みました……。
明けて次の日の朝。とうとう、リオンくんが帰ってこないまま、帰る時間になりました。黒蜜さんの車が邸内にすべりこんでくるのを確認し、ココアとブランシュは自分のトランクを手に取ります。
ココア 「それじゃあ、お世話になりましたー!」
merufa 「また遊びにきてね!」
外に出たブランシュは、館の窓を見上げました。帰る前、ブランシュはみんなの目を盗み、昨日の部屋にこっそりと立ち寄っていました。絨毯にしみ込んだ水あとは、あの時、彼があの場所に確かにいたという証拠です。
ブランシュ (リオンさん、おれ、いつか絶対あなたに追いついてみせます!)
ブランシュの瞳には、あの焔のような赤い髪の残像がはっきりと残っていたのでした。
ここ数日、地道にバトン消化につとめていたわたしですが、水面下では、せっせと兄貴話の直しとイラスト作成に励んでおりました。話はできてるとか言いながら、結局前の更新からきっちり2週間経ってますね……。お待たせした分、最終話(話の区切り的な意味で)の今回は大ボリュームでお届けします。てことで、長いです。
せっかく描いた挿絵は展開上、ずーーっと下のほうで出てきます……。
(こんな長い文章読んでられるか!! っと言う方は、ぜひスクロールして見てやってください;;)
えっと、お話にいく、その前に。
長々とお待たせしてしている間、「兄貴」の飼い主・cotonoさんから、物語の展開予想図(!)として、ブランシュとリオンくん(+ココア)のイラストを描いてもらっちゃいました^^ ⇒ こちら
第3話でもイメージイラストを描いてもらったんですが、予想図、というのは想定外で、うわあああ! と大喜びしながら見てました^^ 書いて描かれて、最高に楽しいですねー!
今回のお話を読む前に、こちらをご覧になると、更に楽しめるかと思います!
ではでは、どうぞー!
【注意書き】作中に出てくる、merufaの館の描写はすべて、わたくしオムレットの妄想の産物です。あくまでオリジナルはcotonoさんの設定になりますので、どうぞご了承ください!
SS
【兄貴とおれ】シリーズ④「深夜の侵入者」
(前回のおはなし)
ココアと一緒に、merufaの館へやってきたブランシュ。館の中でみんなとはぐれてしまったブランシュは、事情を知らないルイくんに、不審な人物と間違われてしまいました。merufaちゃんのとりなしで、ようやく誤解は解けましたが、まだまだ先が思いやられて……?
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「悪い。遅くなった。フィル、館の様子はどうだ」
「はい。変わりありません」
一陣の風とともに、客間に赤髪の青年が現れました。
ブランシュ (き、来たっ!)
ブランシュは、テーブルをはじき倒す勢いで立ち上がると、どきどきしながら、フィルくんと話しているリオンくんのうしろ姿を見つめました。その熱い視線が伝わったのか、リオンくんがこちらを振り向きます。神秘的なアメジスト色の瞳を細めると、ブランシュの方へ近づいてきました。
リオン 「お前か、オレの弟子になりたいってやつは。よし、これからはオレのことを師とも兄とも思えばいい」
ブランシュ 「兄貴!!」
…………。
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ココア 「ブラン君。ブラン君!」
横から肩をゆすられ、ブランシュは我に帰りました。
ここはmerufaの館の一室。隣にはあきれた様子のココア、正面では館の主人、merufaちゃんとルイくんが、静かにお茶を飲んでいます。
話しているうちに、ブランシュは目を開けたまま、リオンくんがやって来る夢を見ていたようでした。
部屋には他に、室内噴水のそばでワイングラスを傾けるセルジュくんの姿があるきりで、あの、焔のような赤髪は見当たりません。ブランシュはがっかりして、肩を落としました。
ルイ 「そう言えばリオンは? まさか、帰って早々遠乗りに出掛けたわけでもないんだろ?」
ブランシュの思考を読んだように、ふいにルイくんが尋ねました。お目当ての名前の出現に、ブランシュは身を正して耳ダンボ。セルジュくんとルイくんとリオンくん。3人はそれぞれ、別々に仕事をしていて、お互いの行動までは把握していないようです。
merufa 「さっき、連絡があったの。ちょっと遅れてるみたい。今夜は、もう戻らないかも。きっちり、時間どおりに終わる仕事じゃないから、時々、こういうことがあるの。ココアちゃん、ブランシュくん、ごめんなさいね」
ココア 「そうなんだぁ……」
ココアはあいづちを打ちながら、横目でブランシュの様子を窺いました。
ブランシュ(どーーーん)
案の定、相当ショックを受けているようです。反動でソファにめり込むようにうなだれるブランシュを、ココアはいたましげに見つめました。
merufa (ブランシュくんたら、そんなに、うちのリオンに会いたかったのかしら?)
不思議そうに小首を傾げるmerufaちゃん。そこに、執事のフィルくんが、夕食の用意ができたことを告げに来ました。merufaちゃんは、その場の空気をとりなすように、明るい声を上げます。
merufa 「うちのシェフが、2人のために腕によりをかけて作った料理よ。さ、食べましょ!」
ココア 「わーい♪ ごはん~! ブラン君、行くよー!」
ブランシュ 「…………」
merufaちゃんを先頭に、ココアが茫然自失状態のブランシュの背中を押して客間を出ていきます。
その様子を面白げにみつめる視線がありました。
セルジュ 「ふーん……あいつ……」
ルイ 「? なんだよ?」
ルイくんが聞きとがめますが、セルジュくんは、意味ありげな微笑を残したまま、それ以上語ろうとはしませんでした。
*
食事は素晴らしいものでした。
なにこれ! すごい! おいしい~! を繰り返しながら、着々とお皿を空けていくココアと違って、ブランシュは豪勢な皿の中の料理を持て余しぎみ。
merufa「あら、ブランシュくん、意外に小食なのね」
ルイ 「別に、口に合わないなら合わないって、正直に言っていいんだぞ?」
ブランシュ 「いや、そんなことないんですけど。なんて言うか、おれには高級すぎるっていうか、食べ慣れなくて……」
ココア 「あ、そお? ブラン君がいらないなら、あたしがもらっちゃおーっと。ぱく♪」
merufa 「ココアちゃん? いくらなんでも、食べすぎよっ?」
夕食のあと。お腹がいっぱいになったココアは、背もたれに身をあずけて御満悦。
ココア 「あたし、merufaちゃんの部屋で寝るー♪」
merufa 「そうね。ブランシュくんは?」
ブランシュ 「えーっと、おれは……」
言いよどむブランシュに、ルイくんが軽口を投げます。
ルイ 「部屋なんか、いっぱい余ってんだから。適当に選んで、好きなところで寝ろよ」
ココア 「そうだっ。あたし、借りてた本を持ってきたの」
セルジュ 「なら、先に図書室に行こうか。また、違う本を持って行ったらいいよ」
ココア 「うんうん、行く行く!」
*
ブランシュは、ココアたちと別れ、ひとり、館の中を散策することにしました。
長く伸びた廊下の両端には、等間隔に扉が並び、それがどこまでも続いていました。普段、狭苦しい塔の家で生活しているブランシュにとっては、めまいがするような広大さです。
ためしに、手近なドアを開けてみると、そこは中央に大きな天蓋付きベッドが据えられた、西洋風の部屋でした。かと思えば、次の部屋は、花の香り漂う南欧風。うってかわって、次の部屋は、コンクリートうちっぱなしの近代的な内装。
とにかく、1つとして同じ部屋がないのです。ブランシュはだんだん面白くなってきて、片っ端から扉を開けて中を覗き込みました。
ある部屋に入ったとき、ブランシュは、それまでと明らかに異なる感覚を覚えました。今までの部屋と違うこと。この部屋には、人の生活の香りがする。
そう、ここには、誰かが長期的に「住んで」いるのです。
室内は闇に包まれていました。庭に面して、大きな窓がとられています。ガラスには忍び寄る夜闇が映り込み、姿を映した者の魂を吸い取ってしまうようでした。ブランシュは灯りをつけないまま、部屋の内部を見渡しました。
シンプルなパイプベッド。その脇に転がるバイクのヘルメット。
そして、壁に掲げられた大小さまざまな剣。
ブランシュ (ここって、もしかして……)
*
はっ、とmerufaちゃんは手のひらで右耳を抑えました。そのまま、様子を探るように、意識を集中させます。
merufa(結界がやぶられた……? 何者かが、この館に侵入、した!)
セルジュ 「merufa。今の、気づいたか?」
merufa 「ええ。強行突破できるとなると、相手はそれなりの実力者よ」
ルイ 「おい! どうなってるんだ!?」
ルイくんまで駆け込んできて、図書室は騒然となりました。
ココア「みんな大騒ぎして。どーしたの?」
ひとり分厚い本を抱え、きょとんとするココア。何だかよく分からないけれど、大変なことが起こったようです。
ルイ 「おい。あの逆髪はどこ行った」
merufa 「ブランシュくんのこと? 東の棟にいるはずだけど……」
セルジュ 「気配はそっちからだ」
ルイくんとセルジュくんが争うように駆け出して行き、ココアはmerufaちゃんと取り残されました。不安そうな顔をするココアを、merufaちゃんは励まします。
merufa 「心配しなくても大丈夫よ。ああ見えて、うちのコたちは強いんだから」
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不意に耳に届いた“ぱりん”、という乾いた音、次いで首筋をなでる冷気。
ブランシュは次の瞬間、背後から近付いてきた黒い影に押し倒され、首元を皮手袋の指で締め上げられていました。
??? 「くたばれ、破妖士。積年の恨み、ここで晴らしてくれる」
はようし? 一体何のことでしょう。聞きなれない単語に戸惑いながら、しかし深く考えている暇もなくて、ブランシュは必死に身をよじりました。
ブランシュ (び、びくともしないっ……!?)
なんという怪力でしょう。ブランシュは逃れる術を持たず、そのまま意識が遠のきかけました。脳裏を、さまざまな事柄が、高速で駆け巡ります。
ブランシュ(ああ、そうか。おれ、ここで死ぬのか。ガレットさん、怒るだろうなー……。あ、やっべー、来週のジャンプ、もう読めないじゃん! あのマンガの続き、気になってたのになー)
とても生死をさまよっている人物の思考とは思われません。しかし、いくら危機感がなくとも、呼吸機能の低下は平等です。急速に狭まりかける視界、その端を、暗闇を照らす松明のような影が横切りました。それは無意識が見せた幻でしょうか。……それとも?
頭上を、急な突風が吹きつけたと思ったら、首元の圧迫から解放されていました。せき込みながら視線を上げれば、今しがた現われた3人目の人物が、ブーツの底で侵入者を足蹴にし、首元に光剣の切っ先を突きつけています。
???「ったく。ここまで追いかけてくるなんて、しつこい野郎だ」
目元を覆う長い前髪から、水滴がしたたり落ちます。
ブランシュは、暗がりに浮かび上がる影の形を、息を詰めて見守りました。
ブランシュ(あっ!?)
暗闇にキラリ、一筋の光が閃きました。
侵入者が、唯一自由になる左手を動かし、取り出したナイフを逆手に持ち替えたのです。光剣を手にした青年は、その動きに気づいていません。
「危ないっ!」
ブランシュが叫んだのに気をとられ、ほんの少し青年が足裏に込めていた力がゆるみました。侵入者は、その隙を逃がしませんでした。青年を突き飛ばし、ひらりと身をひるがえすと、開け放しの扉から廊下へと出ていきます。
「ちっ! 逃がしたか」
青年は、足もとの光剣を拾うと、侵入者を追って駆け出しました。
ひとり、取り残されたブランシュは、へたりこんだまま、数秒、放心していました。光の剣。燃える赤髪。彼こそが、探し求めていた人物に違いないのです。
廊下に出たところで、駆け付けたルイくんとセルジュくんと鉢合わせしました。
セルジュ「おい、何があった!?」
ルイ 「待てっ、そっちには扉がっ!」
2人が止めるのも聞かず、ブランシュはリオンくんを追って廊下を走ります。
やがて、ひとつの大きな扉の前にたどり着きました。勢い込んで扉を開いたブランシュ。
そこには、遥かなる宇宙の深淵が広がっていました。またたく星々、無限の常闇。
驚いて扉を閉めたブランシュ。呼吸を整え、もう1度ノブを回します。
ブランシュ 「あ、あれ?」
見間違いだったのでしょうか。扉の中は、何の変哲もない客間の一室に変わっていました。長いこと使われていない部屋なのでしょうか、家具には白い布がかけられています。
とんとん。後ろから肩を叩かれ、振り向くと、merufaちゃんが満面の笑みをたたえて立っていました。
merufa「ブランシュくん、お部屋は決まった? ねえ、なんならみんなでDVDでも見ない?」
あとからやってきたセルジュくんとルイくんに、めくばせをして、ブランシュを例の扉から引き離すmerufaちゃん。どうやら、館の秘密は守られたようでした。
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ココア 「えーっ、リオンくんに会ったって? ブラン君、夢でも見てたんじゃないの? リオンくんはまだ帰ってきてないってmerufaちゃんが言ってたよ」
みんなが揃った、DVD鑑賞室。ニコニコ笑う、merufaちゃんとルイくんとセルジュくん。
ブランシュは、釈然としないものを感じながら、黙り込みました……。
明けて次の日の朝。とうとう、リオンくんが帰ってこないまま、帰る時間になりました。黒蜜さんの車が邸内にすべりこんでくるのを確認し、ココアとブランシュは自分のトランクを手に取ります。
ココア 「それじゃあ、お世話になりましたー!」
merufa 「また遊びにきてね!」
外に出たブランシュは、館の窓を見上げました。帰る前、ブランシュはみんなの目を盗み、昨日の部屋にこっそりと立ち寄っていました。絨毯にしみ込んだ水あとは、あの時、彼があの場所に確かにいたという証拠です。
ブランシュ (リオンさん、おれ、いつか絶対あなたに追いついてみせます!)
ブランシュの瞳には、あの焔のような赤い髪の残像がはっきりと残っていたのでした。
FIN
わーい♪お待ちしておりました、第4話 o(*^▽^*)o
目に見えるような情景にドキドキしながら拝見しました~♪
それにしてもなんて素敵なうちの子たちvvv
もはやパラレルを通り越して別物になってますよ~^^
本家の方じゃ中華まんの話して大昔に行っちゃったっていうのにw
冒頭、あっさりと師弟になったのかと思ったら私の予想図を
文字にしてくれたのですね、ありがとうございます♪
ブランくんの白昼夢になってるなんてすごいです。
お話に入れてしまうなんて上手ですね^^
それにしても人物も館も素敵過ぎて、何回も読ませて頂きましたw
リオンが現れないと知った時のブランくんの肩の落とし様は可哀想なくらい。
(あ。。またまた今度はリオンの部屋で災難に合ってしまいましたね^^;)
そしてリオン、登場の仕方がカッコ良過ぎ(〃艸〃)v
サッといなくなってしまったのもまた良いな~と思いました。
そしてそして、「ふーん。~」って言った時のセルジュの様子は
オムレットさんと私の好みにぴったりですよね!
私的にかなり素敵な妄想に陥りました///
一瞬だけ会えた、帰り際のブランくんの様子は切ないですね~。
ぜひまたブランくんのためにもお話を書いてくださいねv
リオンから、ちゃんと師弟OKの返事を貰ってほしいです^^
何も知らずにお腹いっぱい食べて楽しい一時を過ごしたココアちゃんは可愛かったです!v
今回もとっても楽しかったです♪ありがとうございました(*^ー^*)
by cotono (2009-09-20 13:33)
こんにちは。
訪問ありがとうございます^^*
小説 すごいですね!
こんな素敵なものが描けるなんて羨ましいです(笑)
by 六花 (2009-09-20 17:03)
早く追いつけますように§^。^§
by 雪渦 (2009-09-22 16:55)
こんばんは!
完結おめでとうございます~
毎回どきどきしながら読ませていただきましたv
cotonoさんちの館での共同生活も、オムレットさんちの塔での共同生活もとっても素敵です(´w`*)
うちの人たちも一応共同生活(寮)なので、素敵な生活羨ましいな~と思いながら読んでいました。
これから両家の関係がどうなっていくか、楽しみにしています!
ブランくん・・・がんばるのだよ・・・!
そして、前回のバトンの回答、照れながら読ませていただきました(´w`*)
いや~なんだか、自分のことが書かれていると照れくさいですね~
そうそう、出会いはそうでしたね!
あの後、ココアちゃんは引っ越してしまいました・・・
by ちりがみ (2009-09-22 21:10)
>cotonoさん
中華まんのお話も楽しかったですよ~v
シリアスとコメディ、好きなようにどちらでも転べるのが楽しいですね。
兄弟でちょっと気の抜けたようなエピソードもやってみたいなあ。
さらにリオンくんのキャラ崩壊しそうですが;;
またどっか遊びに連れて行ってやってください。(修行は??)
ほんと、よく読むと結局いい思いしたのはココアですね。
これだけ遊びに行っていて、merufaちゃんたちの正体に全然気づいてないのも
すごい。のんきだな~。
こちらこそ、いつもお子さま快く貸してくれてありがとです♪
お陰でブランシュも前よりすこし逞しくなってきた感じ……!?
(当初はただのへたれヘンプクでしたからね~) 喜ばしいことですv
>六花さん
こちらこそご訪問ありがとうございます!
お話も読んでくださったんですねうれしいです~><
私的には、絵が上手な方こそ羨ましいのですが……。
これは私の修行不足ですね;;
六花さんのイラスト、可愛らしくって好きです!
またお邪魔します♪
>雪渦さん
応援ありがとうございます♪
なーんかラストでカッコつけてますが、この後ブランはリオンくんを
つけ回すことになります^^; 所謂、ストーカー……(汗)
追いつくのが早いか、捕まるのが早いか!?
あれれ、いつからそんな話になったのでしょう?^^
>ちりがみさん
お祝いありがとうございます~!
ラストまで、それなりに読める話になっていたでしょうか?
どきどきしながら……なんて、わたしこそドキドキしてしまいました!
うっ、うれしい言葉をありがとうございます~><
寮生活、すてきですね~憧れます。寄宿舎とか、共同生活とか大好きなワードです!
塔の生活も、これからもっといろいろ考えていきたいですね~。楽しみです!
たのしいバトンをありがとうございました~。
うんうん、照れくさいって分かります。
イラストバトンを回しまくった時に、他所様のところで散々体験を……。
あ、ココアちゃん引っ越しちゃったんですか……惜しいキャラを……。
また戻ってこないのかな~
by オムレット (2009-09-23 13:51)
何処に連れて行きましょうかね^^
修行か。。w
ちょっとお聞きしますがオムレットさん世界にモンはいるんですよね??
ブランシュくん魔法は使えないけど技は使えるってことで
良いのでしょうか?^^
by cotono (2009-09-23 17:06)
>cotonoさん
またまた遊びのおねだりをしてしまってすみません^^
修行でも遊びでも、cotonoさんのイメージのおもむくままに、ぜひw
しつもんのお答えは、ブログのほうにお邪魔いたします~
by オムレット (2009-09-24 00:59)