あぶないキノコにご用心! [塔の家物語]
とろとろ描いていた挿絵ができたので更新です~
今回のお話、元は以前書いた「兄弟の誕生~時の扉と太古の森~」の中のワンシーンでした。
修正している時に、全体のバランスを考えてまるまる削ってしまったのですが
お話としては気に入っていたので、そのうち書き直して復活させようと目論んでいたものです(フッフッフ)
しかしなかなか季節が合わなくて(やっぱキノコと言えば秋、ですよねー)
やっと今の時期に日の目を見たというわけでした。
挿絵はラテとレーズン。
レーズンは、きちんと描いてあげるのははじめてですね~。
レーズンがメイドキャップ+お団子頭なので、ラテは三つ編み+カチューシャにしました。
メイドさん2人、楽しく描けて気に入っています^^
あ、背景はまたまたpixiv経由でフリー素材をお借りしました。
しかし、キノコが多くて大変だった……
塔の家物語
「あぶないキノコにご用心!」
「あぶないキノコにご用心!」
どすんっ。
嵩の張る、巨大な籠を厨房の調理台の上に載せ、ブランシュは得意げに胸をそらしました。
「すご~い!」
「一日で、よく集めましたねえ」
両脇から籠の中身をのぞき込んでいたラテとレーズンが、口々に感嘆の声を上げます。そのたびに金髪頭の少年の背中はますますそり返っていくのでした。
きっかけは、ココアが見つけてきた一枚の広告でした。
“連休には山に登ろう! ~高級キノコ採り放題・食べ放題~”
緑に覆われた連山の眺めを背景に、網焼き、蒸し焼き、お吸い物……などなど、美味しそうな料理が写真入りで紹介されています。広告を囲んで集まった塔の家の面々は、一様にごくりと生唾を飲み込みました。互いに視線を交わし合い、力強くうなずきます。
「これは…………、行くしかない!!」
メンバーは、ココア・ブランシュ・アンゼリカ・ふらりと帰ってきてたまたま出発の場に居合わせたニコ――の4人に決まりました。
朝の4時、寝ぼけ眼をこすりながら、4人が広告の末尾に記されていた集合場所に赴くと、すでに老若男女、たくさんの人々が集まっていました。
装備品からして見るからにこの道のプロらしい登山家の集団。
理知的な眼鏡に記録用の帳面と筆記用具を携えた、自称・美食研究家のみなさん。
全身を鈍色のマントで覆い、ぼそぼそと聞き取りずらい会話を交わしているあやしげな一団などなど……。
はじめこそ、ライバルの多さにひるみかけた4人ですが、バスに乗り込み、目的地が近付いてくるにしたがって、がぜん、対抗心が湧いてきました。
「よォしっ、どこよりも多く収穫してやろうぜっっ」
「オー!!」
ブランシュのかけ声に、4人の気持ちがひとつになります。
バスが現地に到着しました。自動扉が音を立てて開きます。
さやを突き破ってはじけるエンドウ豆のごとく山に降り立った4人は、我先にとキノコを求めて走り出しました。大人たちが、上昇する気温と傾斜のきつい地形に次々と音を上げる中、4人は若さにまかせて山を縦横無尽に駆け回り、またたく間にキノコを集めていったのです。
「本日の1位は……塔の家チーム!」
「いやったー!」
その日の終わりには、“本日、一番の収穫量をあげたチーム”として全参加者の前で表彰されたほどでした。
収穫したキノコは、参加者がそのまま自宅に持ち帰ることができます。
それがつまり、この調理台の上の山であるわけ、なのですが……。
「料理長、どうかしましたか?」
モカの問いかけに、全員の視線が集まります。
誰もがその時、気付いたのです。この神聖な厨房の主、体格の良い身体に年季の入ったエプロンを巻きつけた、塔の家の正料理長。彼女が先ほどから難しい顔で腕を組んだまま、身じろぎもしないということに……。
エスカは大きく息をつくと、メイド2人に大きめの入れ物を用意するように命じました。籠の両脇にそれぞれ同じぐらいの大きさのボールが配されます。準備が整うと、エスカはおもむろに腕組みを解き、それから怒涛の勢いで選別を始めました。
「これは駄目、これは駄目、これはオーケー、これは駄目……」
みるみるうちに減っていく籠の中のキノコ。しかしどうしたことでしょう。見るからに“可”の山よりも“不可”の山のほうが大きいのです。案の定、すべての選別作業が終わったとき、“可”の容器の中には、その辺りの野山にも生えていそうな、ごく小さい、冴えない姿のキノコが数えるほどしか残されていませんでした。
「どーいうことだよー!!」
当然ながら、住人たちは抗議します。
ブランシュは、“不可”の山から、オレンジと紫の水玉柄のキノコをつかみ、エスカの前に突き出しました。傘は大きく、肉厚でずっしりとした重みがあります。
「コレなんか、きざんで油炒めにしたら、めちゃ美味そうじゃん!!」
主張するブランシュに、エスカは諦観の宿った眼差しを投げました。
「いいさ。油炒めでも串焼きでも、好きにおやり。ただし、その料理を口にしたが最後、あんたは死ぬまでそこらをスキップし続けるはめになるけどね」
「…………」
沈黙が落ちました。
「は……? スキップ?」
ブランシュが、口許を引きつらせます。
エスカは黙って、食器棚の脇に押し込められた、傾きかけの細長い書棚の三段目から、一冊の分厚い書物を抜き出しました。年月とともにそり返り、飴色に変色した頁を指先で繰ると、調理台の上に広げます。
「お間抜けさんたち、見てごらん。ほら。そっくりだろ?」
ブランシュたちは身を乗り出して、指し示された頁に目を凝らしました。
エスカの言うとおりでした。そこにはブランシュが手にしているキノコとそっくり同じ姿をしたキノコが、カラー写真入りで掲載されていました。
曰く、『スキップダケ。有毒。これを食した者は、運動神経・特に足の関節付近に麻痺を起こす。発症した患者が、スキップをするように辺りを走りまわることから、この名で呼ばれる――』
「うわっっ」
ブランシュは、説明書きを読み終えるなり、慌てて手の中のキノコを放り出しました。皆が一斉に後ずさります。キノコは、乾いた音を立てて調理台の上に落下しました。
「で、でもっ。こんなにあるのに、これ全部なんてっ」
あきらめきれないココアが、他のキノコをエスカに差し出します。
「エスカさん、これはっ?」
「『オペラダケ。有毒。これを食した者は、声帯に異常を来たす。常に大声で、歌を歌うように話し、まれに踊り出す。特に高音美声になることが多く、オペラ歌手を彷彿とさせることから、その名がつく。』」
「じゃ、じゃあコレはっ!?」
「『シマシマダケ。有毒。これを食した者は、視覚に異常を来たす。視界に映るものすべてがカラフルな縦縞もしくは横縞に見えることからその名がつく。暗闇ですら白黒の縞模様に見えるため、目を閉じるという対処法も効果はない。』」
エスカは淡々とその書物――『全世界大型菌類大百科』の頁を繰り、キノコの特性を読み上げました。しかし、どれをとっても出てくるのは“有毒”の二文字ばかり。
「そ、そんな……」
ブランシュは、あまりのことに脱力して、石造りの床にへなへなと崩れ落ちました。
「何だったんだ、おれたちの一日の苦労は……」
途端に、忘れていたはずの疲労が全身をどっと襲います。
「ま、次からはこの本でよぉく予習してから行くんだね」
エスカが気の毒げに言いました。
それにしても、こんな毒物だらけの山に客を連れていくなんて、あのイベント会社、まともではありません。
「まぁ、世の中にはいろんな商売があるってことさ。今回は高い授業料を払ったと思って諦めるんだね」
地底レベルにまで落ち込んだその場の空気を取りなすように、エスカが明るい声を上げました。
「あんたたち、そんなに落胆するこたあないよ。あたしの古い知り合いにね、こういうモノに興味があるヤツがいるんだ。そいつのとこでうまく話がつけば、これは良い金になるよ。――と、いうわけでさ、執事の坊ちゃん。この件については、あたしに一任してもらうってことで構わないかい?」
話を振られたモカは一瞬きょとんとしました。が、特に断る理由もありません。
それどころか、この毒の山をどう処分したものか考えあぐねていたところでしたので、一も二もなく承諾しました。
「よーし、それじゃ決まりだね。あんたたち、ちょっと手伝っておくれ!」
そう言うと、ラテとレーズンを使ってすべての毒キノコを古シーツで包み、どこかへしまい込んでしまいました。
さて、その後。問題のキノコたちはどうなったのか。
詳しいことはわかりません。
が、それから数週間が経過したのち、厨房に待望の“貴鉱石式最新型オーブン”が入ったそうですから、相当良い収入になったのでしょう。
(あれ? てゆーか、そもそもあのキノコはオレたちが採ってきたんだから、金もオレたちのものなんじゃねーのか……)
厨房脇の土間で、料理長とメイドたちのはしゃぎ声を聞きながら、ニコは今さらながらそんなことに思い当たります。けれど、オーブンが入ったお陰で、さらに美味しい料理をいただけるようになったのですから、塔の家の住人たちも充分にその恩恵を受けているに違いないのでした。
fin
(おまけ)
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました♪
キノコと言えば、この島で!
(ヤミショでもいろいろキノコアイテムが出てたと思うけど、何一つとして持ってなかった;;)
「よォしっ、どこよりも多く収穫してやろうぜっっ」
「オー!!」
「オー!!」
キノコ狩りに邁進する面々です。このあと、あんな悲劇が待ち受けていようとは。
それから、キノコを持って帰ったあとのこちらのシーンもぺたり。
エスカは淡々とその書物――『全世界大型菌類大百科』の頁を繰り、キノコの特性を読み上げました。
しかし、どれをとっても出てくるのは“有毒”の二文字ばかり……
しかし、どれをとっても出てくるのは“有毒”の二文字ばかり……
※ちなみに、『全世界大型菌類大百科』はオムレットが適当に創作した仮の書物です。
* * *
今回はキノコづくしで楽しくやれましたー♪
最近お絵描き熱が来てて、下書きばっかりたまっていくのですが、これ、いつ塗り終わるんだろう……
ま、まあ、気長にやりますー
なんとか、時期を外さないうちに完成させたいんだけれどもー……
ハロウィンイベントも楽しんでます!
その辺はまた、次の記事にでも。
エスカさんがいらしてほんとに良かったですね
もし食べていたらと思うと
ちょっと見てみたい気もしますがw
キノコの入ったボール可愛いですね
こういうの帽子で出してくれると飛びつきます§^。^§
by 雪渦 (2014-10-16 03:54)
籠いっぱいのカラフルなキノコのお絵かき、ご苦労様でした~v
私も大変だな;とか思いながら描いてましたよw
楽しかったですけどね^^
3Dの書物、すごーい☆
エスカさんご自慢の貴重な物だとお見受けしましたー。
私もぜひ一冊欲しいです(≧∇≦)
メイドさんたちもちゃんと個性があるのですね!
2人並んでいると更に可愛いです~v
塔の家のみなさんは仲が良いですね~。
誰かしらが参加してワイワイとイベントを楽しんでいるのですね^^
キノコ狩りもとても楽しそうでした♪
元気いっぱい、何でもかんでも採っていたのは彼ららしくて可愛いわぁv
食べられないキノコが多くて一番ガッカリだったのはブランくんかな?
でも最新型のオーブンでこれから更に美味しい料理が出るようになって
一番喜んでいるのもブランくんでしょうか?^^
うっめぇ~とか言いながら旺盛に食べている様子が頭に浮かびます^^
by cotono (2014-10-16 15:37)
>雪渦さん
ブランシュたちだけだったら確実に食べてたでしょうね。
その時の阿鼻叫喚ぶりを想像すると、うわぁ……w
一緒に参加してた人たちの中には食べちゃった方もいらっしゃると思われます^^
確かにボールはリヴのアイテムっぽいかもですね。
頭上の~、みたいのは定番ですが、それのボールバージョンで。
ムシクイやミニリヴにはアイテム付けられないですが
絵の中だけでも気分を味わってもらってます^^
by オムレット (2014-10-16 15:41)
>cotonoさん
大量のキノコ、下書きの時はあんまり深く考えてなかったのですが
塗る時になってこれは大変だ……(汗)となりました^^;
レーズンはラテとは真逆の元気な子です。
ラテとは仲良しなので、今回いっしょに描いてあげられて良かったです♪
今回はアウトドアなので、ファッちゃんとガレットは行かないよね……
というわけで、このメンバーになりました。
アンゼリカは結構こういうイベントごとは好きみたいです。
彼らとも長い付き合いになって、おはなしの中でもこのシチュエーションだったら
ついてくるのはこの子とこの子だよね、というのが自然に浮かぶので、
好きにさせている感じですね。
ブランシュは相当ガッカリしてましたね^^
ジャンクフード好きの彼ですが、最近は夕飯目当てに買い食いは控えているようです。
by オムレット (2014-10-20 20:18)