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兄弟の誕生 ~時の扉と太古の森~ 最終話 [塔の家物語]

本日は、2記事まとめて上げにきました。
「兄弟の誕生」完結編です。


【注意】こちらは今日アップする2番目の記事になります。
     前回のお話の続きはこの1つ前の記事になりますので、ご注意ください。



やー、いよいよ完結です。

思い返せばこの「兄貴とおれ」シリーズは2009年の6月ごろからやってたんで、通しで考えれば3年半の長きにわたる付き合いとなりました。
例によってはじめの頃とは文章も雰囲気も似ても似つかぬ感じになっちゃって……(汗)
見捨てずお付き合いくださったcotonoさんはじめ、ここまで読んで下さった方々には感謝・感謝です~<(_ _)>

お話の裏話などは、また次の記事で語ることにしますね。

最後のご紹介! 
今回も、cotonoさん宅のお子さま方をお借りして書かせていただきました。ありがとうございました!

ではでは、続きをどうぞ!








(7)兄弟の誕生


足元で枯れ枝が音を立てて割れます。

「…………」

リオンは眉間にしわを寄せて、黒衣の袖口を口元に押し当てました。森のあちこちから黒煙が上がっています。時折、視界の隅に映る、くすぶりかけの小さな炎。

半ば強制的に時空の海に放り込まれて、merufaの算出した座標を元に辿り着いたのがこの地点でした。とは言え、対象は動き回っているわけで、多少の誤差も頭に入れつつ、先程から付近を歩き回っていたのですが……。

(なんだこの、殺伐とした光景は……。隕石でも落ちたってのか? ……)

降りかかる細かな灰を避けながら、先へ、先へと分け入っていきます。そのうち、前方に高台が見えてきました。あの周辺付近が、目立って被害が激しいようです。

やがてリオンは、崖下にうずくまる巨大な黒い塊が、ただの岩ではないことに気付きました。
その傍らに赤黒く広がる染みと、無造作に投げ出されたスニーカーの足裏にも。


*


急激な体温の低下とともに、意識が覚醒しました。
苦労の末にこじ開けたまぶたの隙間に、前触れなく飛び込んでくる、一面の紅の海。

「うわっ、血っ、血ぃ~っ!!」

ぶわっしゃっ。取り乱すブランシュの頭上に、ふたたび大量の水が降ってきます。

「アホ。よく見てみろ。それの、どこが血だ」
「へっ?」

冷やかな声に指摘されて、我に返りました。言われてみれば、これだけの出血をした割に、身体のどこにも痛みを感じないのは変です。試しにほっぺたを人差し指の先でなぞり、口に含んでみると。

「…………甘い?」

舌先が、甘酸っぱい果実の風味を感じ取り、ブランシュは目をぱちくりさせました。どうやら、最後に起こった爆発の際に、頭上から落ちてきた規格外の果実に脳天を直撃され、中の果汁をひっかぶったようです。そこまでは納得できるとして、どうして腕の痛みまで消えているのでしょうか。首をひねって確かめてみると、怪物にえぐりとられた腕の傷はもちろん、全身に負った無数のすり傷や、右のすねの打撲痕まで消え失せていました。

(あの状態で帰したら、卒倒しかねない奴がいるからな……)

血の海にうつ伏せで横たわるブランシュを目にして、一瞬、肝を冷やしたリオンです。だからこそ、事の重大さに気付くこともなく、元通りになった身体をつねったりはたいたりして遊んでいるブランシュに、ひどい脱力感を覚えました。

(まったく、昨日からお前ひとりのためにどんだけ振り回されたと思ってるんだよ……。サッサとこいつを館まで転送して、それで晴れて自由の身に……)

何の気なしに視線をめぐらせた時でした。すぐそこに横たわる怪物の巨体が目に留まりました。表面を覆う焼け焦げたうろこ、力をなくした太く長い尾。キャップとエプロンは、燃えかすがかろうじて耳先と首周りにぶら下がっています。リオンは信じられないというように目を剥きました。

「こいつは、知能を持つ伝説の怪物メトギロン!? まさか、お前ひとりで、このバケモノを倒したのか?」

リオンに問われ、ブランシュは困惑したように首を傾げました。

「え、えっと……? たぶん」
「たぶん!? たぶんってなんだ!」
「あわわわわっ。んなコト言ったってっ、おれにもよく分かんねーんだもん! あいつが先回りしてきて、マジ絶対絶命で、やけくそになって、そこらの棒きれ拾って……。そしたら、急にこいつが落ちてきて、なんかいけそうな気がして!! あとはピカーンとかドカーンとか、とにかくよく覚えてないっっ!」

なぜか、最後にはヤケになって居直るブランシュです。リオンは、今の要領を得ない説明と傍らに落ちていた古びた剣、それに現場の状況から、頭の中にひとつの仮説を組み上げました。

(媒体による魔力の増幅……? 確かに、人間にはそういうタイプも多いと聞くが、これほどあからさまに数値が跳ね上がるヤツも珍しい。普段はそれこそ、消えかけのろうそくのように弱々しい力しか持たないのに、きっかけを与えることで、一気に火柱となる可能性を秘めているとは)

これまで、限りなくゼロに近かった、リオンのブランシュに対する興味の目盛りが、この時、ほんの少しプラスに傾きました。

「おいお前、もしかして、今までにもこういう経験があったりとか……」
「ぶえーっくしゅ!」

期待をはらんだ質問は、理不尽な暴風とけたたましい騒音によって遮られました。
確かに、先刻からいやに小刻みに全身を震わせているとは思っていましたが、ついに限界が来たようです。

「ぶえーっくしゅ! ぶえーっくしゅ! ぶえーっくしゅ!」

立て続けにくしゃみを連発すると、それで辛うじて残存していた体力を最後の一滴まで使い果たしたらしく。

「ううううーん」

白目をむいて、背中から地面にひっくり返ってしまいました。

「おいおいおいおい……」

勘弁してくれよ。リオンは恨めしげに天を仰ぎました。


*


布ごしに伝わるぬくもり。一切の緊張をほどいて、全身を預けることのできる絶対の安心感。
ブランシュは、めったに訪れることのない至福の感覚に身を委ねながら、自分がこれまで辿ってきた道、そして出会ってきた人々のことを思い返していました。

故郷の両親。懐かしい兄姉たち。飛び乗った列車。遠ざかる見慣れた街並み。辿り着いた不思議の島、偶然の出会い、丘の上の塔の家、ようやく手に入れた自分だけの居場所。
そしてあの日。現れた彼女。はじめは、お高くとまった奴だと決めつけて、口もきかなかった。
だけど偶然目にしてしまった別の顔。その日から、君はぼくにとって特別なひとになった。こんなぼくを、君はバカだと思ってるんだろう。それでもいいよ。いつかきっと、君にふさわしい男になってみせるから。

「ガレットさーん……。おれ、やったよー。でかい怪物を、やっつけたんだ。だからもう、心配はいらないよ、ガレットさーん……」

むにゃむにゃと、口の中で呟くブランシュに、背中の声が尋ねました。

「誰だそりゃ。お前の女か?」

ブランシュは、両目を閉じたまま、口許だけでにへら、と笑みを作ります。

「う~ん、そーなってくれたらウレシイんだけどー。ガレットさんはねー、可愛いんだっ。一見、ツンとして見えるけどー、それは虚勢ってヤツで~。だからおれが強くなって、守ってあげたいんだっ。…………」



*


規則正しい寝息を立て始めた、背中の上の大きな荷物――すべての気力を使い果たしたような、疲弊しきった寝顔を眺め、リオンは再び歩き出しました。場所はすでに“現代の”merufaの館近くの森。雨上がりの森は、木々をいろどる雫粒が澄みきった空の色をうつし取り、どこもかしこもきらきらと輝いています。雨宿りをしていた動物たちも、少しずつ姿を見せ始めました。

リオンとしては、直接“時空の間”に出るように道をつないだつもりだったのですが、出てきたのはリオンが普段からよく使っている森の中の小道でした。どうやら意図的に道筋に手を加えた人物がいるようです。
いつもと違っているのは、今日の連れは愛車のバイクではなく、細っこい濡れネズミのような少年だということ。

――強くなって、守る。

(それがお前の“理由”か)

こんな醜態をさらしておいて、何を大層なこと言ってるんだか――カッコつけることだけは一人前の金髪頭をこづいてやりたくなりますが、それでも不思議と嫌な気持ちにはなりませんでした。あの夜のバーで感じた、厭世的な気分とはまるで真逆の、清々しい爽快感。まるで胸の中心を、一陣の風が吹き抜けていくような。

(人間ってヤツは、おかしなイキモノだな)

けれど、面白い。リオンの中で、魔族独特のきまぐれがむくりと頭をもたげました。

「おいお前、次の土曜はあいてるか?」
「……んー? どーよーうー?」

ブランシュは、夢の中で聞いているのか、もごもごと生返事をします。

「館に来い。稽古をつけてやる。……だからもう、無闇に俺の後を付け回すんじゃないぞ」


*


次の日の朝。眠気覚ましのコーラを瓶から直接喉に流し込んでいると、開け放しの扉から注がれる熱のこもった視線を感じました。残りの液体をぐびりと飲み干し、手の甲で口許を拭うと、冷めた眼差しを放ります。ピンク色の髪の少女は、浮かぶ笑みを押さえきれないといった様子で、上目遣いに紅色の瞳を輝かせました。

「ねえ、リオン。ブランシュ君を弟子にしたって、本当なの!?」

――きたか。

リオンは嘆息して、カラになった瓶をテーブルに乗せると、胸の前で腕組みしました。

「…………。弟子じゃねえよ。弟分だ、弟分」
「そんなの、どっちでも一緒じゃない。ね、どういうことっ。ブランシュ君の熱意に、ついにほだされたってわけなの?」
「べつに。そんなんじゃねーよ」

あれから、いつもの道を通って館に帰り着くと、玄関先にお馴染みの黒塗りのロールスロイスが停まっていました。リオンが時空の穴に飛び込んだあと、すぐにmerufaが塔の家に連絡を入れたらしく、すでに迎えがよこされていたのです。恐縮する塔の家の執事をとりなしつつ、運転手の手を借りて一向に目を覚ます気配のないブランシュ(と、その付属物)をまとめて後部座席に押し込み。バタバタしたその場の雰囲気にかこつけて、さっさと自室に引き上げたので、merufaの質問攻めに遭わずに済んでいたのでした。その分が、今に集中しているというわけなのですが……。

ばしばしばしっ。平手で二の腕を強打されて、リオンは恐れをなして身を引きました。
merufaは頬を真っ赤に染めて、両腕をじたばたと動かしています。

「またまたぁ! そんな、照れちゃってぇ!」

何がそんなにうれしいのでしょうか。理解に苦しむリオンです。

「なんだなんだ、今日はまた朝から賑やかだなあ」
「この館が静かな時なんて、あったか?」

次々と姿を現すルイとセルジュに、merufaが待ってましたとばかりに口を開き、この分だと今日は一日中、この話題でからかわれる羽目になるなと、額をおさえるリオンでした。


*


同日。時を少し巻き戻して、こちらも早朝の塔の家。

「えーっ!! ブラン君、本当にリオンくんの弟分になったのぉ~っ!?」

ココア始め、その場に居合わせた塔の家の住人たちの驚愕の表情を満足げに眺め、ブランシュはソファの上でふんぞり返りました。

「ふふん~。どうだっ、凄かろう~!」

余裕の笑みで右手を顔の横まで持ち上げ、鷹揚に肯いてみせます。

(ぜ、絶対断られると思ってたのに……)
(なんでも、随分前からそれはもうスッポンか強力磁石のごとく、つきまとっていたらしいですわよ~)
(それはそれは。お相手の方は、さぞご迷惑だったでしょうね)

裏でひそひそと交わされる会話にはまるで頓着せず、一から十までひたすら上機嫌なブランシュです。

「ね、どーやってOKしてもらったの!?」

ココアの問いは純粋な好奇心でした。つい先日までまったくの脈無しで、話を聞いてもらうだけでも一苦労だったというのに、なんと一発逆転。次の土曜には剣の稽古をつけてもらうところまで漕ぎつけたというのですから、一体、この二日の間に二人に何があったのか。興味がそそられるというものです。

「いっやー、それが……。おれにも、よくわかんないんだよなー」
「何それ?」

きょとんとするココアに、ブランシュも、腕を組んで真剣に考え込みます。

「おれ、ほとんど寝てたしな―。話の流れがつかめないっていうか、気が付いたらそんな話になってたってゆーか……」

頼りないブランシュの話に、ココアの眼差しが、どんどん疑わしげなものに変わっていきます。

「ブラン君……。それって、ホントに大丈夫? もしかして、また夢でも見てたんじゃないのぉー?」

大体、リオンくんに“おんぶ”されたって何、“おんぶ”って! それなら、あたしだって、セルジュくんに“お姫さま抱っこ”されたいっ!

多分に私情が差し挟まれている分、見方は一層、冷ややかになります。
ブランシュは、必死に弁解しました。

「そっ、そんなことあるワケないだろ。そ、そうだ、きっと、おれの熱意にリオンさんの心が動かされたんだ。きっとそうだっ」
「――いや。それはないな」
「あっ、アンゼさぁあああんっ」

横から一言のもとに否定され、床に崩れ落ちるブランシュです。

「ところで、この剣は相当な値打ちモノだな? お前、一体どこで手に入れたんだ?」

アンゼリカの方にはまったく悪気はないようで、ブランシュが持ち帰った骨董品の剣を少し興奮気味にためつすがめつしています。その後ろでは、ファッジとムースが輪廻花の鉢植えを囲んでぽかんと口を開けていました。

「お前ら、それはガレットさんにあげるものなんだからなー!」

あまりの夢中ぶりに、ブランシュが予防線を張ります。
埒が明かないと判断したココアは、椅子からすっくと立ち上がると、元気よく片手を上げました。

「はーい! あたし、merufaちゃんに確認の電話をかけてきまーす!」

何人かがそのあとについていき、残りの人々は「なんだ、結局夢オチか」という空気で、三々五々、その場を離れていきます。
ブランシュの主張が塔の家の住人たちに受け入れられるまでには、まだほんの少し、時間がかかりそうでした。

fin

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雪渦

無事に帰ってこられてほんとによかったです§^。^§
by 雪渦 (2012-12-28 23:31) 

cotono

物語完結おめでとうございます~*
それと、ご苦労様でしたv
3年半も続け完結までもってきた持続力、すごいです!☆
詳細な物語背景と一生懸命なブランくん、うちのこも混ぜていただいて
とっても楽しませていただきました~♪
ブランくんは秘められた能力があったのですね。
そのぶん更に、これからの人生でまた大変な目に合うんじゃないかと心配ですw
オムレットさんならまたスーパーブランくんの活躍話を書けそうだし^^
お話の最後にあった塔の家の賑やかな様子を読んで
また新しいお話でみなさんの今後を知りたくなりました^^
新しい構想は浮かんでいるのでしょうか?^^
次のお話も期待してますね~v
by cotono (2012-12-29 12:54) 

オムレット

>雪渦さん
長いこと遭難させっぱなしだったので
落ち着くところに落ち着いてわたしもほっとしました^^
お付き合いありがとうございましたー!


>cotonoさん
ここまで長いお付き合いありがとうございました~!
まさかこれほどかかってしまうとは当初は予想だにしておらず……
1話1話のスパンが空いてしまってホントに申し訳なかったですー;
はじめはとにかくブランシュをリオンくんの弟分にする、という目的のために書いていた話だったのですが、書いているうちにブランの生い立ちなど色々な要素が出てくることになって、自分でも予想外で面白かったですー^^
ブランシュは今後も苦労するでしょうねー
うちのメンバーでは戦闘能力があるのはブランとアンゼぐらいですからね。
必然的に強くならざるを得ないという。
なので、リオンくん、特訓お願いしますv
ここのところブランシュとひたすら顔を突き合わせているような状態が続いていたので、
次は他の子メインの話がいいかな、と……。
また色々、思いつきを書き溜めていこうと思っています♪

それではリオンくん&merufaちゃん、出演お疲れさまでした!
ありがとうございましたー!
by オムレット (2012-12-29 20:40) 

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