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ニセモノ農夫とお嬢様 [塔の家物語]

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塔の家物語
「ニセモノ農夫とお嬢様」


幼い頃にトラウマを植え付けられた、いわくつきの書物「天使の書」を探して
今日も西に東に旅をしているラスク。

その日は、畑で採れた農作物を売り歩く農夫に身をやつし、
有力な情報をもとめて、通りを行き交う人々の声に耳を傾けていました。
教会から支給された制服のマントなどは、荷車の木箱に隠してあります。
そのかわり身につけているのは、麦わら帽子と生成りのチュニックシャツ。
すっかり農夫になりきったつもりでいる彼ですが、帽子の下や袖口からのぞく
蒼白い肌は、これが変装であることを如実に物語っていました。

「美味しい葡萄はいかがかね~。ワインにしても美味しいよ~。」

ただ突っ立っているだけでは怪しまれるので、時折、荷車の本来の持ち主から教わった
売り口上を叫んでみます。
絶望的に芝居っ気のない彼の言葉は完全に棒読みで、逆に目立っていましたが
本人にはあまり自覚はないようでした。

初秋のぽかぽかとした日差しが降りそそぐ午後。
お昼時を過ぎると、客足は徐々に遠のき、ラスクは眠気に誘われて、うとうとと居眠りを始めました……。


* * *


「あら、良さそうな葡萄じゃない」
「……この品種は、市場でも見かけないものですね」

荷車の前で足を止めたのは、一目見て高貴な育ちと分かる令嬢と、そのお付きのメイドでした。
装いから推察するに、これから観劇に向かう途中のようです。
開演までにはまだ時間がありますが、すこし早めに車を降りて、街を散策しているところでした。

「葡萄酒も作りたいし、少しいただいていこうかしら」

ところが、店番の青年は声をかけてもまったく目を覚ます気配がありません。

「困りましたね……。どうしましょう、ガレットさま」
「まったく、呆れたものね。商売する気がないのかしら」

そうこうしているうちに、劇場に向かわなければならない時間が迫ってきました。

「仕方がないわね……。ねえ貴女、運転手に車を回して来るように言ってきて頂戴」


* * *


ラスクが目を覚ますと、太陽は少し翳りを帯びて中空に引っ掛かっていました。
朦朧とする頭を振りながら身体を起こします。

「ああ、わたしとしたことが……」

昨夜も遅くまで、滞在中の宿屋で「天使の書」関連の資料に目を通していたラスクです。
ここ数ヶ月、休みもなしに働き詰めだった疲れが、不意に出たようでした。

「これでは、あの人のことを笑えませんね」

自嘲気味に呟き、振り返った彼は、次の瞬間、愕然と立ち尽くしました。
無理もありません。
何せ、荷車の上の売り物の農作物が、きれいさっぱり、消え失せていたのですから。
その代わり、あらわになった荷車の底板に、一枚の紙が残されていました。
重しの石をよけて、紙を取り上げます。

"あなた、お商売に向いてなくってよ"

そう走り書きされた紙を裏返すと、それは小切手でした。
金額の欄には、それこそ目の飛び出るような数字が書き込まれています。

「か……金持ちのすることは、よく分かりませんね……」

ラスクは、軽い頭痛を覚えると、辺りを片づけ、空になった荷車を引いて農村に帰りました。
借り主の農夫に、調査協力に対する礼を伝え、今日一日の売り上げとして小切手を渡します。

「きみには商売の才能がある! どうだ、うちの娘の婿に来ないか!?」

大喜びの農夫の熱心な誘いを丁重に断り、ラスクはまた次の調査に向かうのでした。

fin






~後日談~

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その後、農夫は小切手のお金を元手に事業を拡大。
ちいさな畑は広大なぶどう園となり、農夫は経営者として大金持ちになりました。
数年後、偶然、このぶどう園を訪れたガレット。

「あら? この葡萄は、あの時の……?」

なんて、もしかしたら気付くかも、ね?




(オムレット注)

マイショップで購入したワインオープナーと、交換パークでもらったドライフラワーでレイアウトしました。
荷車の島とレンガの部屋の壁紙の組み合わせが好きです♪
「部屋」って名前が付いてるけど、街の通りのイメージで。
荷車の上ですやすや眠っているラスクさんと、そこを通りがかったガレットという構図で
お話を思いついたので書いてみました。
まだラスクが塔の家に来る前、偶然2人がすれ違っていたというエピソードです。

しかし、ラスクは変装しているし、ガレットはガレットでラスクが起きる前に立ち去っているので
実は2人とも互いを認識していません。
ですので、後日、塔の家で顔を合わせることになっても、まったく気付かないという。

完璧主義のラスクさんですが、この時、相当お疲れのようで……(汗)
早く塔の家にたどり着けると良いですね!

って、いつまで放浪させとく気だこの野郎~! という声がどこからか聞こえてきそうですが。
いやいや、ラスクさんは育ちが良いから、そんな言葉遣いはしないよね。うんうん。
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架羽しう

こんにちは。
物語……葡萄が欲しい、でも店番は寝ている。
そこで、声はかけても強引に彼を起こそうとしない辺り、
お二人の品の良さと優しさが^^

ドライフラワー、ぱっと見て「いつ出たGLLアイテムだっけ」なんて思ったんですが、交換パークのアイテムだったんですね。
優しい色合いが背景や島と馴染んでいて綺麗。リヴの色ともあいますね。
by 架羽しう (2015-12-18 02:31) 

雪渦

あっさりと全部渡してしまうのはラスクさんらしいですね
少しくらいもらって調査の費用にとか・・・考えないんでしょうね§^。^;§
by 雪渦 (2015-12-18 05:24) 

cotono

寝ている間に農作物を全て充分すぎる金額で買い取り、
ズバリな一言もガレットさんらしいですね^^
カッコいいですv
お目に留まった葡萄、かなり美味しいものなんでしょうね。
農夫さん、小切手を貰わなくてもいつか大きな農園が持てる人だったのかも^^
あっさりと小切手を農夫に渡すラスクくんも彼らしくて、彼らの性格をとても良く表してるな~と思いました。
ラスクくん、かなり仕事のできる人だと思うんですけどガレットさんには言い負かされてしまうのかな?
二人の塔の家での出会いが楽しみに思える物語でした♪
by cotono (2015-12-20 12:30) 

オムレット

>架羽しうさん
こんにちは!
多分、ブランシュやレーズンがいれば、ムリヤリにでも起こしたと思うんですけどね^^
ラテもガレットも諦めが早いというか(笑)
このドライフラワー、交換パークに並んだ時から気になっていたんですが
結構最近入手しました。
どちらも淡いきれいな色合いで気に入ってます♪
吊るすアイテムは重宝しますよね^^
他の色のも出ないかな~と思ってます。
by オムレット (2015-12-20 19:18) 

オムレット

>雪渦さん
ほんと、調査費用の足しにすれば良かったんですよねー!
ラスクは物欲とかそういうの皆無っぽいです。
極度にストイックというか、やっぱり教会関係な人なので。
で、この話を電話で相棒にして、また呆れられると(笑)
いつもそういう流れっぽいです^^
by オムレット (2015-12-20 19:24) 

オムレット

>cotonoさん
うちの子は今までほとんど未成年ばかりだったので、ラスクの話の時は
ちょっと組織の勤め人っぽい雰囲気が書けて楽しいです♪
ガレットは、どうしても葡萄が食べたかったんでしょうね……。
山ほどの葡萄を前に、目を回すモカの姿が浮かぶようです。
それからの塔の家は葡萄づくしの食卓だったことでしょう。
ラスクは仕事人間ですけど、私生活の方では結構ボンヤリな人なので
ガレットの相手にはならなさそうです。
図体ばっかり大きいくせにどんくさいわね! とか思われてそう。
ああ、なんだか書いていてラスクが哀れに思えてきました^^;
by オムレット (2015-12-20 19:36) 

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